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横浜地方裁判所 昭和54年(ワ)971号 判決 1983年9月26日

原告

有城薫

外二三名

右原告ら二四名訴訟代理人

福田徹

高野真人

加藤晋介

被告

株式会社イトーヨーカ堂

右代表者

伊藤雅俊

右訴訟代理人

的場武治

吉成昌之

栗林秀造

市川昇

鈴木健司

飯塚俊則

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実《省略》

理由

一原告らは、主位的に生業権に基づき、予備的に不法行為に基づき被告の営業の差止めを求める。そこで、以下、右請求の当否について順次判断することとする。

二生業権に基づく営業差止請求について

原告ら主張の生業権とは、要するに、国民が生業を営み、文化的水準を維持するに足る収入を得て自ら生活水準を確保してゆく権利であり、生業の維持を困難にする違法な行為、例えば、圧倒的な経済的優位性を有する同業者の競業行為の差止めを求め得る絶対的排他的効力を有する権利であつて、その根拠を憲法一三条、二五条に求めるというものである。

しかして、憲法二五条一項は、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」と規定するが、右規定は、生存権の保障を規定したものであつて、しかも、すべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営み得るよう国政を運用すべきことを国家の責務として宣言したにとどまり、個々の国民に対して具体的権利を賦与したものではないと解される(最高裁昭和二三年九月二九日大法廷判決・刑集二巻一〇号一二三五頁)から、憲法二五条一項は原告ら主張の生業権の根拠とは到底なり得ないものというべきである。

また、憲法一三条は、憲法の基本的人権に関する規定の総則的規定と解されるところ、基本的人権に関する規定の一つである憲法二二条一項は営業の自由を保障し、被告の営業もこの保障の下にあるものであるが、この営業の自由は右規定から明らかなように公共の福祉による制限を受けるのみである。しかるに、原告ら主張の生業権を認めると、同業者相互間においてその経済的地位の優劣に応じて一方の営業のために他方の営業が制限される結果となるが、このような営業の自由の制限は憲法の認める公共の福祉による営業の自由の制限の範ちゆうの外にあるものといわなければならない。したがつて、憲法一三条がかかる生業権を保障したとは到底解することができない。

しかして、憲法以外の実定法規上においても原告ら主張の生業権を保障した規定を認めることはできない。

したがつて、原告らの主張する生業権なる権利は実定法上の根拠を全く欠き、かかる権利の存在を前提とする原告らのその余の主張については、判断するまでもなく、採用することができない。

三不法行為による営業差止請求について

原告らは、被告のたまプラーザ店の営業により、原告らの文化的生活を営むための事業の収益が減少し、これを維持することが困難となつたので、たまプラーザ店の営業は不法行為であるから、原告らは不法行為に基づく右営業の差止請求権を有する旨主張するので判断する。

たまプラーザ店は、大店法所定の手続を経たうえ、昭和五四年三月二〇日、本件建物において、別紙たまプラーザ店営業内容記載のとおりの営業を開始したこと、被告が原告ら主張のとおりのいわゆる大手スーパーであり、たまプラーザ店の売上高が原告ら主張のとおりであることは当事者間に争いがない。

しかしながら、前述のとおり憲法二二条一項は営業の自由を保障し、たまプラーザ店の右営業は右保障下にあると解されるから、右営業が原告らに比して圧倒的に巨大な被告の経済力を背景とするものであるというのみでは、仮に原告らの経営する事業につきその主張するとおりの収益の減少があつたとしても、そのことから直ちにたまプラーザ店の右営業を違法ということはできない。

そうすると、被告は原告らに対して不法行為責任を負うものとは認め難く、原告らの被告に対する右責任の存在を前提とするその余の主張について判断するまでもなく採用することができない。

四結論

よつて、原告らの本訴請求は、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九三条一項本文を各適用し、主文のとおり判決する。

(古館清吾 吉戒修一 須田啓之)

物件目録、業務内容目録<省略>

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